氷海航行船舶の性能解析技術の開発
物理ベースモデリングによる氷片相互作用の数値解析
船舶が多数の浮氷と衝突,相互干渉しながら航行する状況を数値解析によりシミュレーションする技術を開発しています.
「物理ベースモデリング」と呼ばれる運動解析技術を応用しています.物理ベースモデリングをこの分野の解析に応用したのは流体工学研究室が世界初で,パイオニアと認識されています.その後この解析技術は急速に普及し,現在では多くの研究者に利用される一般的な手法になっています.(non-smooth DEMと呼ばれることもあります.)
小氷片密集水路航行船舶の数値解析
背景
さまざまな理由から,北極航路の利用が着目されています.
地球温暖化の影響で,北極の氷が減退し,特に夏は航路が利用しやすくなっている.
北極海にある化石燃料資源の開発が着目され,持続的な資源開発・利用が模索されている.
ロシア・ウクライナ問題を契機として,ロシア沿岸を通る航路(北東航路)の国際航路としての利用は減っている.(ロシア国内の物流航路としての利用は続いている.)一方でカナダ側航路(北西航路)の利用が増えている.
北極海航行船舶への燃料油規制(heavy fuel oil ban)がはじまっている.
このような理由から北極航路を航行する砕氷型あるいは耐氷型の船舶への性能や安全性に対する関心が高まっています.北極海は夏季の海氷は減退しているものの,そのぶん北極点付近や氷河由来の固い氷(多年氷)が流出しやすくなっており,氷片衝突時のリスクは減少していると言い切れません.
実験による性能解析の限界
砕氷船または耐氷型海洋構造物を設計するに際してその砕氷・耐氷性能を予測するためには、現時点では氷海水槽での模型試験がもっとも有効で現実的な方法だと考えられます。特に設計の最終段階では、船型模型を作成して実験し、その設計の有効性を確認する必要があると思われます。
しかし設計の初期の段階で、多くの設計パラメタに対して最適な値を見つけようとするときには、氷海水槽での模型試験は安易に実施できる方法ではありません。現在、日本で稼動している氷海水槽は1施設のみで,世界的にも10施設未満です.また氷海水槽の実験では氷を張る必要があり、1枚の氷に対して実施可能な実験内容は限定されるなどの理由から、多数の実験を行うことができません。
このような理由から「数値解析による性能評価」や「通常水槽を用いた性能の解析」ができるようになることが望まれており,流体工学研究室でもこの課題に取り組んでいます.
北極海を航行する船(写真提供:大塚夏彦教授(北海道大学))
論文
物理ベースモデリングをこの分野の解析に応用したのは流体工学研究室が世界初で,下記の講演会論文で発表しました.その後この解析技術は急速に普及し,現在では多くの研究者に利用される一般的な手法になっています.
Konno, Akihisa, and Takashi Mizuki. "Numerical simulation of pre-sawn ice test of model icebreaker using physically based modeling." Proceedings of the 18th IAHR international symposium on ice, Sapporo, Japan. 2006.
比較的最近の論文.物理ベースモデリングを用いて小氷片密集水路航行船舶の解析を系統的に行い,議論している.
Tokudome, Taiki, and Akihisa Konno. "Ship bow shape effects on brash ice channel resistance." Cold Regions Science and Technology 206 (2023): 103747.
日本語で説明している論文
金野祥久ほか、砕氷船の性能評価を目的とした船体周り氷片挙動シミュレータの開発、日本船舶海洋工学会論文集Vol. 8 (2008) P 99-106.
金野祥久、吉本和弘、物理ベースモデリングに基づくbrash ice channel 航行船舶の抵抗評価手法の開発、日本船舶海洋工学会論文集Vol. 10 (2010) P 49-56.
残された研究課題
たくさんあります。以下は一例。
水槽試験に合わせた数値計算。これは簡単なように思えて、実は難しい 問題である。たとえば模型船の重心を調べたり、水槽試験での船の固定方法を調べ、適切に模倣する必要がある。
氷の動きの検証。水槽試験の結果と付き合わせて検証したい.
船と氷との間にはたらく力を詳細に調べる
氷の割れ(砕氷)の取り扱い
流体計算とのカップリングが不完全